第2回 この裁判自体が性差別への抗議に対するバックラッシュ #KuToo裁判では何が起きていたのか

2019年11月に出版された私の著書「#KuToo:靴から考える本気のフェミニズム」について裁判が行われました。その裁判ではいったい何が起きていたのか、記事にまとめています。

第1回 ネットリテラシーの罠

第3回 へんてこりんな日本語読解が認められるかが実質的な争点だったこと

第4回 謎の「クソリプ定義論」

第5回 女性差別を理解しない限りバックラッシュは続く

勝訴判決が出てもクソリプは止まりません

なかば予想していたことですが、裁判で私の本「#KuToo:靴から考える本気のフェミニズム」に著作権法上の問題がない、と明白に認められても、Twitter上での私への嫌がらせは全くやみません。

 確かに、原告「はるかちゃん」は控訴するそうですからまだ勝訴判決が確定しているわけではないですが、それにしても、判決文(個人情報に配慮してネット上で公開しました)を読みもしないで、判決を曲解して「これからは他人のツイートを改竄して引用もいいという判決が出た」とまで騒ぎ出す人の多さにはあきれます。

 他人のツイートを改竄して引用したらふつうに著作権法違反です。で、私はそんなことしてません。原告は、私が原告のツイートの趣旨を歪めて引用した、と言っていましたが、判決では、私が著作権法を守っていたことを認定してくれたというだけです。

 もう一度書きますが、

 私が著作権法を守って適法に引用した、と裁判所は認めました。

 ですが、とにかく私が改竄したんだと言い張りたい人達は、せっかく公開しても判決文を見もしないし、見たとしても、自分が認めたくないこと、つまり私が著作権法違反をしていない、ということは認めようとしません。何を言っても事実をみないんだなと思います。

 「へーそんな判決出たんだ、じゃあフェミのツイートを同じように無断できりとって引用して本にしてもいいんですね」みたいなことを勝ち誇ったように書く人も何回も見ましたが、どうぞ...としか言いようがありません。

   著作権法とか法律を守れば本書けばいいんじゃないですか? 私も守って書きましたし。ていうか 元々引用自体は法律のルールを守れば、「無断で」していい事だったんですよ(世の中には、他人の文章を「無断で」引用してる文章なんていっぱいあるけど、知らなかったのかな?)。

 そんなわけで、クソリプは、判決が出ても全然止まりません。

原告代理人のおかしなアピール

 そういう人達はともかく(本当はともかく、でもないですが)、この判決の内容、裁判の経緯をよく知っているはずの原告代理人の弁護士が、あれ? という内容をTwitterに書いているのを見たので、ひっぱられて誤解する人がいないようにここで書いておきたいと思います。

 「はるかちゃん」代理人の小沢一仁弁護士(インテグラル法律事務所)は、判決言い渡し前日に以下のようなことを書いて、報道関係者に、この裁判は「誹謗中傷問題」「女性差別問題」とは関係ないのだ、と何度もアピールしていました。以下の引用部分の下線は私がひいたもので原文にはありません。

原告としては、本件の原告のツイートは第三者との会話の一部で述べられた意見にすぎず、また、石川氏に向けたものでも名指ししたものでもないので、石川氏に対する誹謗中傷と評価される余地はないと考えています。反訴も起こされていません。インターネット上における石川氏に対する→

誹謗中傷問題、あるいは女性差別問題などと、本件訴訟の問題点を混同して報じることは避けていただきますようお願いします。

本件訴訟は、原告のツイートが石川氏の書籍に転載されたことの適否という、著作権法上の問題が中心的なもので、それ以上でもそれ以下でもありません。昨今ジェンダーや女性差別に関する話題が取り上げられる場合の傾向を原告側なりに考慮した結果、事前にメディアに配慮を求めた次第です

(引用終わり)

 私が、判決言い渡し直後に記者会見やるということをメディアに広報していたので、そのことを知ってこのようなことを書いていたのでしょうね。

裁判の背景事情にバックラッシュがあることをごまかさないで

 今回私がすごく言いたいことは、

この裁判がジェンダーとか女性差別に関係ないとかそんなことあるはずないだろう!!

 ということです。

 私に言わせれば はっきり言って この裁判を起こしてきたこと自体が#KuToo運動に対する バックラッシュ の一環です。裁判を起こしてきたこと自体は違法ではないと私の弁護士から言われましたし、そうなのでしょう。でもこんな無茶苦茶な主張で裁判を起こされて、「裁判を起こされたってことは何か石川にも問題あったかも」という空気が生まれました。

 小沢弁護士の目には本当に本件が 誹謗中傷や女性差別に関係ないと、そう見えるのでしょうか?

 見えるのかもしれないけど、だとしたらそれは、目の前に女性差別とかジェンダー問題があるのに、それを認識できないというだけです。 自覚がないままバックラッシュに加担しちゃってると言うだけです。 自覚を持てないなんて、自分がやってることの意味が分からないなんて 、それ自体がすごく問題なんじゃないですか?性差別への抗議に対するバックラッシュを認識する力をつけてもらえないでしょうか

 もしよかったら、私が責任編集をした『エトセトラ VOL.4 女性運動とバックラッシュ』を読んで是非勉強していただきたいです。 

 小沢弁護士が出した 原告側の証拠で、私に対するTwitter上の嫌がらせのツイートがものすごくいっぱい出てきてたんです。

 原告の証拠は甲1から34までですが、このうち 19個の証拠がツイート画像です。私のツイートにすごい人数の人が 攻撃的批判的な言葉遣いで リプライして長いスレッドになっているものもあります。

 ちなみに、原告側の証拠には、私がメディアのインタビューに応じてたり私の取材に基づいて書かれた報道記事も3つもあります。

 そのなかで私は「 私が女性にだけヒールのある靴を規定するのは女性差別だからやめてくださいと活動を始めたときのツイッターの反応にはまさに女性差別が現れていてそれをクソリプ等が可視化してくれたなと思いますね」とか話してるんですよ。原告も、小沢弁護士も、それも読んでるんだよね? こういうの見てもそれでも、なんで女性差別とか関係ないって言えるんだろう、と素朴に不思議です。

今回の訴訟の流れ

 そもそも、本件はこういう流れだったわけです。

 ➀ 私が#KuToo運動を始める

   ↓

 ② Twitterですごいバッシングを受ける。

   ↓

 ③ あまりのバッシングのすごさに、それらを「クソリプ」と総称して記録する本を書いて、私が「クソリプ」と感じたツイートを複数引用した。原告のツイートもその一つ。

   ↓

 ④ 原告が、自分のツイートは「クソリプ」じゃないのに「クソリプ」として引用された、著作権法違反だ、名誉感情侵害の不法行為だ、と訴えてきた。

   ↓

 ⑤ 2021/5/28判決 原告の請求は全て認められず。

   (控訴するそうです)

 もちろん、裁判では「性差別の有無」とか「原告が私を誹謗中傷したか」が法律上の争点だったわけじゃないですよ。原告が私を訴えたわけですから、争点は、「私の本に著作権法違反があったか、私が不法行為をしたか」でした。

性差別の否定こそがバックラッシュ

 でも、こういう背景で起こされた事件だし、原告のツイートが#KuToo運動を批判・非難する趣旨のものだというのは判決が認定したことだし認定しないと結論出せないことだったので、どう考えても、#KuTooへのバックラッシュがこの裁判の背景にあるんです。それを小沢弁護士が否定して、メディアに「性差別とか誹謗中傷とか関係ないと理解してほしい」「著作権法上の問題以上でも以下ではない」と言ってたわけですが、それにひっぱられないで下さい。こういう小沢弁護士の言い方は、この裁判の、「性差別への抗議へのバックラッシュ」という悪質さをごまかし、矮小化するものだと感じました。「これは性差別への抗議のバックラッシュではない」って言ってそこにある性差別を否定することも、一種の性差別なんじゃないですか。

 ちなみに私が「クソリプ」と批判したツイートには、色々な性質のものがありましたが、典型例として、 そもそも女性が職場でヒールやパンプスの着用を強制されている性差別的な実態があるということを理解せず、または否定して、#KuTooを批判する、というパターンがあります。

 原告が私や#KuTooについて言及したツイートは多数ありますが、例えば以下のツイートなどから、私は、原告のツイートはこのパターンに属すると思ってます。

現行の法律でも申請出せばヒール履かなくて済むので正直履きたくなければ会社に申請出して履かなけりゃいいんですけどね(´・ω・`)

如何せん周りの同調が〜なんて言う

女性の敵は女性っていうあれです( ˘ω˘ ) スヤァ…

 いや、別に法律でハイヒール着用が義務付けられてるわけじゃないし、職場で明確なルールがなくても(私の以前の葬儀会社のようにルールとして義務付けられている職場も全然ありますが)、慣習とか暗黙のルールとかで、ヒール着用せざるを得ないっていうことに多くの女性が苦しんでる、強制しないで、ってことなのに、すごいズレてますよね。ちなみに原告「はるかちゃん」は男性です(ご自分でTwitterで書かれています)。自分自身は「仕事でヒールを着用せざるを得なかった」なんて経験したことないことのはずなのにな、と思います。なんで自分がヒールを着用せざるを得なかった経験がないのか、少し考えれば分かると思うんです。それは「はるかちゃんが男性だから」、それだけです。

判決文はこちらから。

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