フェミ読書日記『葬儀!』ジュリエット・カズ 吉田良子訳

この本、色んな国の「死」や葬儀式のあり方や歴史について書かれています。こういうものを見ると、死というものに対しての価値観って本当に様々だなぁと感じます。

2017年に芸能界での性被害について#MeToo したことによって、当時のアルバイトを失いました。(こういう発信をする人には一部仕事を任せられないということで、自主退社です。)

その後私は新型コロナウイルスが広まり始めた頃まで、葬儀に関わる仕事をしてきました。実際に式の進行をサポートする仕事や、葬儀の受注を受けるコンタクトセンターでの仕事。

現場ではずっと立ちっぱなし、まぁまぁの力仕事もあるし、葬儀中はヒールの音を立てないように!とか怒られるのに私の会社は女性はヒールが必須。そんな中マジで足がいて〜と思ってツイートしたことがきっかけに、#KuToo 運動は始まりました。

そんな葬儀の仕事でしたが、たった一年くらいだったけれど週に何回も他人の葬儀式を見ていて思うことは本当にたくさんありました。

出勤するたびに、「自分もいつか死ぬんだな」ということを、ぼんやりではなく心の底から実感すること。これは私が生活する中で一番根幹になっている気持ちかもしれません。「次の瞬間には生きていないかもしれない」というのは、いつもどこでも心の隅っこで、でも結構どっしりと鎮座するような価値観となりました。

死ぬのはもちろん私だけではありません。誰もがみんな、確実にこの日をいつかは迎えるんだな。たくさんの方の葬儀をお手伝いして、それを深く実感することになりました。誰もが必ず迎える死。来ると分かっていても、実際に来たらまるでそんなもの来ないと思っていたかのように驚き、悲しみ、何も準備ができていないまま迎える葬儀式。

「あぁ、みんな死ぬんだな」と思いながらも、同時に自分の中で消化しきれないことも生まれました。

お金をかけると、ゆっくり故人とのお別れの時間をかけ、葬儀を豪勢にすることができ、故人にいかに価値があったのか、ということがそこで決まるかのような格差が生まれることです。

通常、通夜式と告別式で行われてきた日本の葬儀式ですが、今では半分くらいが「一日葬」となっています。お通夜は執り行わず、告別式のみです。そしてほとんどが家族葬。親族・親戚のみの葬儀が多かったです。一番大きな葬儀は、とある議員のお父さんの葬儀式でした。

私が一番なんとも言えない気持ちになったのは、通夜も告別式も行わず「火葬のみ」という人たちがいるということ。火葬場待ち合わせで、炉前で慌ただしくお花を入れてお焼香をあげて、一応お寺さんにも来てもらってお見送りをする。

本人たちが望んでの火葬のみの場合ももちろんあるのでしょうが、お金がなくて、という方もいると思います。

対してお金のある人たちはたっぷり広いお部屋で通夜と告別式を行い、炉前は特別な個室にします。他の葬家と同じ部屋とかにならないの。東京の主な火葬場だと通常75000円くらいの火葬料、これがプラス3万くらいで特別室、プラス8万くらいでもっと特別な個室。よりゆっくり故人とお別れができるんですよね。(正確な金額ではないです。大体こんな感じだったかと。東京は火葬場の選択肢がほぼないようなものだと思います。)

みんな同じように生まれて、同じように死んでいく。人の生死は平等なんだろうと思っていた私ですが、こういう場に直面して、これってどういうことなんだろう。お金があるとその人の死がすごく特別なもののようにされて、お金がない人はちゃっちゃと亡くなったことすら誰にも知られないまま終わっていく。これってどう受け止めればいいんだろう。そう感じていました。

なんのために「式」を執り行うのか。終わりに親族の方から「とてもいい式になりました。きちんと見送ることができた。ありがとう。」と言われた言葉を受けて、「どうしたら限られた時間とお金の中でご遺族の方達ができる限り思い残すことなく見送ることのお手伝いができるんだろうか」と考えながら取り組んだ仕事でした。

そんな中で行われる、私たちから集めた税金を使って行われる、「特別な人」のための「特別な葬儀」。私は黙って見送ることができません。これ以上、人が生まれること、生きること、死ぬことは階級があるんだというメッセージを送らないでほしい。そんなの受け取りたくないし、葬儀式というものに失望させないでほしい。もうこれ以上、私たちって平等じゃないんだと思わせないでほしい。

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