「私の感想」の価値

ここ数日、「それってあなたの感想ですよね?」についてずっと考えていた。
「それってあなたの感想ですよね?」が論破とみなされる世界。相手をバカにできる世界。相手に勝ったとなる世界。

よく「またフェミがお気持ちで騒いでるw」と揶揄されることが多い。そしてその問題は「お気持ちの問題」なので問題とみなされない。

私への嫌がらせリプで特徴的なことがある。それは、自分の感想を客観的事実として書き換えてリプを送ってくる、ということだ。

「あなたは嫌われています」「誰もこいつの言うことなんか信用しない」「#KuTooは成果が出ていない」「売名行為をしている」「男を貶めるために攻撃している」「世間から忘れられている」「呆れられてますよ」「そんなやり方じゃ共感を得られませんよ」「そのやり方じゃ理解してもらえませんよ」

こういうことを、もっとたくさんだけど#KuToo運動から3年間ずっと言われ続けてきた。この人たちはみんな、正直に「自分はお前のことが嫌いだ」「自分はこいつの言うことなんか信用しない」「自分は#KuToo運動は成果が出ていないと思う」「自分は石川は売名行為をしていると思う」「自分は石川は男を貶めるために攻撃しているのだと思う」「自分は、世間は石川を忘れて行っていると思っている(あなたは忘れてないんだねと思うけど。)」「自分はこいつに呆れている」「自分はそのやり方には共感できない」「自分はそのやり方だと理解ができない」とは言わない。自分を主語にして語ることができない人たちだなと思う。

なぜ自分を主語にできないかというと、それじゃあ私がショックを受けないからではないかと考えている。私の評価を下げることができないから。どこの誰だか知らない人の「自分はお前が嫌い」なんて、「あ、そうですか」で終わってしまう。(好きな人に言われたらショックだけど!)

だから自分を「世間」に置き換えて、それがまるで客観的事実かのように言い、相手を自分に従わせようとする。

こんなツイートがあった。

「私の感想」と書きながら、実際に書かれたその文章は主語が「私」ではないのだ。

「私の感想」として書いているなら文章の書き方が下手で、 「ひろゆき氏をやっつけたくて必死になっている様子が文章から伝わってきました」 →「自分はこの文章を読んで、石川氏はひろゆき氏をやっつけたくて必死になっているのではないかと感じました」

「反対派が「反対派は3000日以上24時間座り込み続けてるんだ!」と一般人をミスリードする看板を立てていたのが一番の問題ですよね」 →「反対派が立て掛けていた看板は見て一般人の自分は24時間と勘違いしてしまうので、それが一番の問題だと自分は感じています」

みたいな感じが適切なのではないか。
どちらも修正前だと、主語が石川優実だったり、反対派だったり。自分の感想なのに、他人を主語にしている。とてもおかしな話だと思う。

もしかしたら、この人は本当に「自分の感想」と「事実」がわからなくなっているのかもしれない。

私は思う。この人たちが、きちんと主語を自分で語ることができていたら、「対話」はできたのかもしれないと。「そんなやり方じゃ世間の共感を得られないよ」が、「自分はそんなやり方だと共感ができない」と言われたら、まだそこから対話が生まれたかもしれないと。

「そんなやり方じゃ理解されないよ」が、「そんなやり方だと自分には理解できないよ」だったら、少しは違ったのではないかと。

「自分の感想」を言うことを極端に避けるのは何故なのだろう?自分が感じたことを相手に開示することを避け、自分の感想は客観的事実に書き換え、相手の感想をバカにして蔑ろにするのは何故なのだろう?

「自分の感想」には価値がないと思わされていないか。「自分のお気持ち」なんて、意味がないと思わされていないだろうか。

でも、感情や気持ちがあるというのは、私たちが生きている人間である証拠なのではないのだろうか。感情や気持ちを無視するのなら、私たちは人間として扱われているというのだろうか?

感情というものは、お気持ちというものは、みんな一人一人違って、それは私たちが一人一人違う人間である証拠だとも思う。それを無理くり客観的事実になんて書き換えようとしないで、感想は感想のまま、尊重して大事にしてやればいい、私はそう思う。
「日本を守りたい」だってお気持ちだし、「海外からの敬意や弔意に礼節をもって応える必要がある」だってお気持ちなのではないか?

「彼の感想」は

辺野古の看板の前ででピースの写真を撮った日からひろゆき氏は、デマとヘイトを積み重ねている。たくさんの人を尊厳を奪いながら、止まる気配がない。

彼は今、何を考えているのだろうか。自分が起こしたことでたくさんの人が泣いて、傷ついて、彼はそれに対してどう感じているのだろうか。それを客観的事実になんて書き換えず、そのままの感想として私は知りたいと思う。

「だって反対派が」ではなくて、自分について語ることはできないだろうか。
デマにデマを重ね、知らないことをどんどん知らないままツイートしさらに多くの被害を生み発信し続ける。一体今、どんな気持ちなのだろうか。

みんなが自分の感想を、「自分の感想だ」と素直に話せる社会だったら、どうなっていたのだろう。悲しいとか、辛いとか、怒っているとか、無知だと思われたくないとか、嫌われたくないとか、人より上に見られたいとか、嬉しいとか、楽しいとか、バカにされてショックだったとか、そういう感想を口にまでできなくても、せめて自分の中で把握して大切にすることができてたら、こんな拗れたやりとりばかりは生まれないのではないかと思う。

そして、自分のお気持ちを大切にしていたら、辺野古で座り込みをしている人たちの気持ちだって、同じように大切にすることができたのではないかと思う。

今回の一連の出来事で、心が疲れてしまった人がたくさんたくさんいると思う。どうかその悲しみを見ないふりをしたり、無理に蓋をしないでほしい。「これは自分の感想に過ぎないから、わざわざ訴えるのはやめよう」なんて思わないでほしい。「お気持ち」を大切にし合える人たちで助け合って、支え合って、乗り越えていきたいと思う。

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【イベントのお知らせ】

2022/10/14(金)、中谷いずみさんとトークイベントに出演します。

フェミニズムとアナキズムが交差するところ~石川優実『もう空気なんて読まない』(河出書房新社)をめぐって

収束が見えないコロナ禍、大国の横暴や不誠実極まりない政治などをきっかけに、 分断、抑圧。格差が際立って明らかとなっている。 不自由を強いられる日常のなかで、私たちはどう生き、 将来をどう思い描いたらいいのか。現下の社会情勢をふまえ、注目すべき本や各地で取り組まれる諸活動などを手がかりに、 何かと生きづらい世の中で、いかに自由に、自分らしく生きていくか、 「支配のない状態」を意味する「アナキズム」の可能性を探る 連続トークイベントを開催します!(全5回)
来場チケット https://jinnet.dokushojin.com/products/event-anarchism2-20221014
配信チケット https://jinnet.dokushojin.com/products/event-online-anarchism2-20221014

【第2回の開催要項】

フェミニズムとアナキズムが交差するところ~石川優実『もう空気なんて読まない』(河出書房新社)をめぐって

世の中に溢れる理不尽に立ち向かうにはどうしたらいいのか。あらゆる女性差別と闘うにはどうしたらいいのか。#MeToo運動や#KuToo運動を展開してきた著者がその闘いの過程と自らの体験を綴ったエッセイ集を手がかりに、〈私〉から始まるフェミニズムとアナキズムをめぐって、俳優と文学研究者が語り合います。 ふたりの対話を通して、ジェンダーに起因する諸問題に、女性解放運動と文学の歴史を重ね合わせながら、根強くはびこるジェンダー規範を脱し、自分の人生を自分で選択できる、自由で幸せな女性の生き方を探ります。

出演:石川優実(俳優、フェミニスト、アクティビスト) 中谷いずみ(二松学舎大学文学部教員。日本近現代文学・文化研究)

日時:10月14日(金)19時~20時30分

会場:読書人隣り 千代田区神田神保町1-3-5冨山房ビル6階

参加費:2000円

主催:アナキズムを読む会、読書人

【出演者プロフィール】

石川優実 1987年生まれ。俳優、フェミニスト、アクティビスト。2014年公開の映画『女の穴』で初主演。芸能界の性暴力に関する「#MeToo」や、職場でのパンプス義務付け反対運動「#KuToo」を展開。世界中のメディアで取り上げられ、英BBC「100人の女性」に選出される。著書に『#KuTooー靴から考える本気のフェミニズム』(現代書館、2019年)、『もう空気なんて読まない』(河出書房新社、2021年)のほか、雑誌『エトセトラ』VOL.4(特集 女性運動とバックラッシュ)の責任編集を務めた。

中谷いずみ 1972年生まれ。二松学舎大学文学部准教授。専門は日本近現代文学・文化。著書に『その「民衆」とは誰なのかージェンダー・階級・アイデンティティ』(2013年)、『女性と闘争ー雑誌「女人芸術」と一九三〇年前後の文化生産』(共編著、2019年、ともに青弓社)、論文に「フェミニズムとアナキズムの出会いー伊藤野枝とエマ・ゴールドマン」(『有島武郎研究』23号、2020年)など。

※オンライン視聴では、開催当日(ライブ配信)および開催日翌日から1週間、イベントを視聴できます。 ※各回の申込は、およそ開催1ヶ月前より受付を開始します。 ※今後の感染状況等により開催日程が変更になることもありますので、あらかじめご了承ください。 開催日程が変更になりましたら、読書人のサイトで随時ご案内いたします。

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「もう空気なんて読まない」特設サイト

フェミニズムに人生が救われた――。恋愛やセックス、仕事、人間関係。生活と地続きに考えるフェミニズムの形。石川優実はなぜ闘うのか。自らを見つめ直した渾身の書き下ろしエッセイ!

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