「ONE LIFE ワンライフ ミーガン・ラピノー自伝」

「ONE LIFE ワンライフ ミーガン・ラピノー自伝」海と月社 @umitotsukisha
ミーガン・ラピノー @mrapinoe
栗木さつき訳

アメリカの女子サッカー選手、ミーガン・ラピノーが自分の人生を綴った一冊。

双子で産まれ、大勢の家族と元気に尊重され育ったこと、サッカーとの出会い、自分のセクシュアリティの目覚め、本格的にプロ選手として活躍し、同性愛をカミングアウトし賃金平等の訴訟、まだ多くの人がだんまりの頃から #blacklivesmatter ブラックライブズマターを支持し声をあげていたこと、その裏では干され続けていたこと、恋人のスーとの出会い、トランプにTwitterで「口を動かす前にまず優勝しろ」と言われたワールドカップでその通り優勝し、ニューヨーク市庁舎前で有名なスピーチをしたこと。

あのかっこいいラピノーは一体どんな人物なんだろう?知りたかった多くのことがこの本に書いてあった。

ラピノーはサッカーで結果を出し、有名になるたびに「自分の得たこの発言権で何をしよう」と考える。そして、必ずそれをマイノリティーの権利のため、社会をよくするために使う。
ラピノーが同性愛者であることをカミングアウトしメディアで語るのは、自分のためだけではない。それが全てのマイノリティの権利のためになると信じているからだし、実際そうだからだ。

驚いたのは、2016年ラピノーが試合の前、国歌斉唱のときに起立せず膝をつき、人種差別に抗議をしたときのこと。当時、アメリカでも後に続く人はほぼおらず、ラピノーはかなり孤立したそうだ。
それは国内の人々たちからのすさまじい誹謗中傷もだが、所属していたチームの監督からもで、試合にほぼ出してもらえなくなったのだと。

この本の始めの方に、

「お偉いさんたちが待ちかまえる部屋に行って『賃金を上げてほしい』と要求するには尻込みしそうになったし、あなたたちは人種差別主義者だと声をあげるときにも勇気を振りしぼった。相手はたいてい烈火のごとく怒るからだ。私が直接何か言ったわけではない人たちからも、怒りを買った。ひとりの女性が『こんなことは間違っている』と声をあげると、世間はこれほどまでに怒るのかと呆気にとられた。」

とあった。正直びっくりした。
日本と変わらないではないか!しかもラピノーほどの人でもそんな目に遭うのか。

でもそれもそうか、少し前まではトランプが大統領だった国だ。

そんな中屈せずに声を上げ続けたラピノーは本当にかっこいい。

彼女は言う。
「自分が正しいことをするのに、好きになってもらう必要はないのだから」
と。

私は、声を上げることは自分との戦いだと思う。
どれだけ自分のことを、自分が正しいと信じたことを貫き通せるのか、どれだけ自分に正直でいられるのか、どれだけ自分自身と向き合うことをし続けられるのか。

それを体現し続けている彼女と、同じ年の2019年に「英BBC世界に影響を与えた100人の女性 #100women 」に選ばれたことは私のちょっとした自慢なのだ。(すごくない?)

そして強く強く共感したのは、「みんなも声をあげてほしい」ということ。
声をあげられる立場の人が声をあげなければ、社会は変わらない。
自分一人が声をあげるだけでは無理なのだ。みんなそれぞれ、声をあげられるタイミングがある。
それは十分わかったうえで、やっぱり声をあげてほしいと強く思う。そんなことも書いていた。

そして世界は確実に変わっているだろう。ラピノーが始めて試合前に膝をついて人種差別に抗議した2016年から4年後の2020年5月、ブラックライブズマターは大きなうねりとなり、世界中でデモが行われた。
2022年2月、米国サッカー連盟はついに女子代表チームの主張を認め、2400万ドルの和解金の支払いと賃金の平等を約束すると発表した。

ラピノーは社会を変えることのできる、選ばれた特別な人間なのだろうか?この本を読み終わった私は、そうは思わない。サッカーの才能は確かにすげぇ。生まれ持ったものがあると本人も言っている。

でもそれだけじゃない。決して屈することのない強い信念があるからだと思う。そしてそれは、きっと誰にでもあるものではないかと私は思う。

それにどれだけ正直に向き合って生きることができるのか。自分の信じるもののために自分は一体何ができるのか?
考え続けて淡々と行動をし続ける。私はそれが全てではないかと思う。

きっとこの本を読み終えたら、自分のことを信じてあげようと思えると思う。そんな勇気を与えてくれる一冊だった。

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