今、女性やフェミニストに観てほしい映画。吉田浩太監督「SexualDrive」

今、新宿武蔵野館で上映中の映画「SexualDrive」を、どうしても多くのフェミニスト、女性にも観てほしくてこのブログを書いています。この映画が評価されることは、フェミニズム的な観点から邦画界にとって重要なことなのではないかと思うのです。でもまずそのためには観てもらわなければ!そう思っています。

まず私は、2014年にふみふみこさん原作・吉田浩太監督映画「女の穴」でダブル主演をつとめました。(初めて脱いだ作品です。)その後、吉田監督の演出する舞台「ひたちなかのラベンダー」に出演しています。吉田さんとはこんな感じでお世話になっています。

この映画 「Sexual Drive」 は、三本の短編集です。

1つめが橋本マナミさんの「納豆」。

とある休日の夕方にデザイナー・江夏の自宅に見知らぬ男・栗田がやって来る。江夏の妻・真澄の知り合いだという栗田は、真澄と不倫をしてしまい謝罪に来たと言ってきた。妻と不倫中であるという栗田の告白に動揺する江夏。なぜ妻はこの男と不倫をしたのか。なぜこの男と行為を持っているのか―栗田から妻との不倫の詳細を聞くと、自身の知らなかった妻の内実が明らかになっていく……。

「Sexual Drive」 公式HP

2つめはさとうほなみさんの「麻婆豆腐」。

軽度のパニック障害で休職中の上原茜。リハビリを兼ねて夕飯の麻婆豆腐の買い出しに近所のスーパーへ車を運転していくことになる。運転を心配する夫をよそに、一人で運転を試みる茜。緊張しながら車を発進させるが、男を轢いてしまう 慌てて警察に連絡しようとするが、男は家まで送ってくれれば大丈夫だという。被害者を家まで送ることになった茜。その被害者の名前は栗田と言った……。

「Sexual Drive」 公式HP

3つめは武田梨奈さんの「背油大蒜増々」。

仕事が忙しい会社員の池上。今日も体だけの関係の桃花とのデートがあったが、仕事を理由にキャンセルした。 正直、既婚の身でありながら桃花との関係を続けているのも苦になっていた池上。会社で仕事をしていると、桃花の携帯から連絡が入る。面倒に思いながら携帯を取ると、何故か電話口からは 栗田と名乗る男の声。不審に思う池山に、栗田は今、桃花と一緒にいると言ってきた……。

「Sexual Drive」 公式HP

そして全編にわたり出演している謎の男「栗田」を演じているのは芹澤興人さん。

私はこの映画のアフタートークに呼んでいただきました。

4年前に納豆ができて、その後続編を作るといってクラファンをしていたとき、私も宣伝に協力したことがあって。その時吉田監督は「次回作は車で人をひきたいという性癖を持った人をテーマに作ります」と言っていて「何言ってんだこの人は」と思っていました。それが今回完成して、海外の映画祭で話題になり、ついに日本で公開になりました。

今日は私がこの映画を観てもらいたいポイントを、主にフェミニズム的な視点から記事を書きたいと思います。

「Sexual Drive」見どころ1 直接的な性描写のないエロス

この映画「SexualDrive」は、エロスをテーマにしながらも女性の裸や濡れ場などの直接的な性描写はありません。
吉田浩太監督は主にエロスをテーマに映画を撮られている方ですが、これまでの作品は女性のヌードや濡れ場のあるものが大半でした。エロスがテーマとは言っても吉田監督はいつも女性に観てほしいという気持ちで映画を作ってきたそうです。伝えたいものは女性の性の解放であることが多かったと思うし、私も吉田監督の映画は、自分の内面に向き合わせてくれるような映画なのでとても好きでした。

しかし、監督がそのような想いで作品を作っても、作品となって世の中に出て、さらに宣伝される時には必ず「男性向けのエロ」というような形になってしまっていました。売りとして「エロい」「抜ける」「あの女優の初脱ぎ」・・・対象は一部のシス男性になってしまうわけです。これはとてももったいないことだと私は感じていました。

今回のこの「SexualDrive」は、吉田監督にとってそういった社会へのカウンター的なものだそうです。

これまで、映画でエロを描くには女性の裸・濡れ場のシーンは必要だと言い、多くの女性俳優が脱がされてきました。
もちろん、自分の意思で脱いだ人もいるでしょう。でも、男性俳優は求められない「脱ぎ」という行為を、どこまで俳優として「自分の意思で脱いだ」と言っていいのか、私にはわかりません。
芸術の名の下に、仕方なく脱ぐことを決めさせられた女性俳優も0ではないでしょう。それはずっと、「映画でエロスを表現するには女性の裸や濡れ場が必要だ」と言い、それ以外の表現方法を探ることをせず、さらに「エロ」というものは「女性を一方的に消費すること」という既存の価値観を疑わずに多くの人が過ごしてきた結果だと思います。

先日、週刊文春で水原希子さんが映画「彼女」の出演が決まったのち、約束以上の露出の要求をしつこくされた件が報道されました。

水原希子が告白2時間「私は性加害プロデューサーにアンダーヘアを出すよう要求された」【全文公開】

私はグラビアの仕事をしているときに、こういうことが日常茶飯事でした。現場で当日、マネージャーがいない時を狙って急DVDメーカーの社長が「これ以上の露出しないと売れないから」と脅してきて、打ち合わせではなかった露出をさせられたこともありました。怖くて何も言えませんでした。
これと同じようなことが、大きな映画の現場でも起きていたということに驚いています。
水原さんはお断りしたそうですが、要求を断れなかった女性俳優もいるかもしれません。

このプロデューサーは宣伝で「水原さんが初めてアンダーヘアを出した」ということを使いたかったのでしょう。本当にこういった、女性の性を売りにしようとすることはたくさんたくさんあるし、仕方がないと思わされてきた人は多かったと思います。

でも、この今回のこの映画「SexualDrive」を観たら、これまでそうやって女性の俳優を脱がしてきた奴らどうすんの?と言いたいのです。
女性の裸をなくせ、濡れ場をなくせとは言いません。でも、それが当たり前になりすぎてたくさんの女性俳優を傷つけ、この社会における「女の裸はエロいものだ」という価値観形成を助長してきたのではないか、そう思います。

そしてしかし、この作品はエロスをテーマにしているのに、女性の裸も濡れ場もありません。実験的でフェミニズム的で、とても意義のあることだと私は思っています。

「Sexual Drive」見どころ2 外側に興奮を求めるエロス、ではなく自分の内側を探すエロス

この映画は、女性がもののように扱われていることを肯定するシーンがありません。それは私の一つの安心ポイントでもあります。

どうしても、これまで女性の裸が一方的に「エロいもの」と扱われすぎたせいで、フラットに女性の裸を観ることが今の私にはできません。女性の裸が出てくると、しんどい気持ちになってしまうことが多々あります。その時は主に一方的に女性をエロいものとして撮影し、その作品は多分一部のシス男性を喜ばせるために作られているシーンであることが多いからだと思います。

この社会はあまりにも、エロを一部のシス男性のものだとしてきてしまったのではないでしょうか?コンビニにたくさんあったエロ本は全て男性向け、週刊誌や青年漫画の表紙は水着の女性が非常に多いですが、その逆はほとんどない。昨今炎上する広告はほぼ男性向けのもので、女性を一方的に性の対象と見なすもの。AVだって風俗だって、女性向けは本当に一部。痴漢やセクハラ、スカートめくり、レイプなどの女性に対する性暴力は「娯楽」として扱われることもまだ多い。長い間女性のセルフプレジャーグッズは、男性が女性に使うために存在しているような形のものばかりでした。バイアグラはすぐに認可が降りたと言います。対してピルにはとても時間がかかったと。

「エロ」や「セクシャル」なことは、男性のためにある。女性の存在は男性を楽しませるためにある。女性の裸は男性が見て楽しむものだ。そういう非対称な風潮が、確実にありました。今でもまだまだ存在します。

でも、本来エロってそんな男性→女性だけの一方的なものだけなのでしょうか?

この映画SexualDrive」は、そんな一方的に女性を観て興奮を覚えるだけのような従来のエロの価値観とは大きく違います。外側に求めるものではない、「自分の中にある性の衝動」。ひたすら自分の内面と向きあわされてしまう、そんな作品なんです。

全てのジェンダーの人に観てもらいたい、エロス作品なんです。

「Sexual Drive」見どころ3 性衝動は生衝動・栗田前と栗田後

この作品は、芹澤興人さん演じる栗田に出会うことによって、登場人物の「本当の自分」が暴露されていきます。

私にとっての栗田は、吉田監督でした。私は、今の私、つまり本当に私になる大きなきっかけに、吉田監督の舞台に出演した時に「根拠なんていらないから自分に自信を持て」と言われたことがありました。

当時の私は本当に自分のことが大嫌いで、それは度重なる性被害も大きな原因でした。被害を被害と受け止められないまま、自分の気持ちを見つけられないまま、何がしたいのかわからないまま私は死んだように生きていました。

しかし、お芝居に出会って、吉田監督に出会って、私は私がなぜ自分のことを嫌いになってしまったのかやっと向き合うことができました。

その先にフェミニズムがあり、今の私がいます。本当の私はもっと自分の思ったことを大切にしたかったし、ずっと怒りたかった。自分と違う人に迎合したくなかった。空気を読みたくなかった。好きでもない人と我慢して性行為をしたくなかった。

この作品は、エロス、性欲をテーマにしていますが、先述したようにこれまで多くあった男性目線の女性を一方的に消費するようなエロではなく、自分の中にある本当の自分を、芹澤興人さん演じる栗田がなかなかの荒治療ですが思い出させてくれます。この社会で生きているうちに、どこかに置いてきてしまった本当の自分に再会できます。

私はまだ栗田に出会っていない皆さんに、ぜひ栗田に出会ってほしいと強く願っています。

「Sexual Drive」見どころまとめ

キャストの皆さんも最高でした。
橋本マナミさん、あのどっちかわからないお芝居すっごいなと思ったし、さとうほなみさん(ゲスの極み乙女のドラムの方)の覚醒したお芝居、武田梨奈さんのエロいラーメンの食べ方、みんな本当に最高でした。

あとトークイベントでも話したんですけど、単純にこの映画ウケます!面白いっていうかウケる!て感じです。ウケるポイントは昨日お話してきました!私は何カ所も声出して爆笑してました。

これまでの一方的に押し付けられるエロに飽き飽きしていた皆さん、ぜひGWは新宿武蔵野館へ足を運んでみてください!

また、なかなか大きく宣伝ができていないらしいので、クチコミがとっても大切です。
「#セクシャルドライブ」「#SexualDrive」でどうぞTwitterやインスタグラム、映画サイトのレビューなど書き込んでもらえると、ヒットにつながるかもしれません!

でもまずはとにかく観て、ただ何も考えずに楽しんでもらいたいです!

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